令和4年度岡山県備中県民局提案型協働事業採択事業

                   
お知らせ

第5回キャリアアップ講座「AI時代のクリエイターの働き方~お金と仲間と作品と~」を開催しました。

ことばでこんな絵を描いてほしいと指定すると、自動的にデジタル絵画を出力する人工知能(AI)や、質問を投げかけるとそれに対していかにも本当のような回答を返すAIが、ネットでは話題です。デジタル絵画を出力するAIが広がるとイラストレーターの仕事がなくなるのではないかとか、学校のレポート作成や、ときには研究者の論文作成にもAIが使われるのではないかと、いろいろな予測がされています。

「AIが世の中に普及したら、退屈な繰り返しの仕事は任せて、人間はクリエイティブな仕事に集中すればよい」。こんなことも言われていましたが、デジタル絵画を描き、難しい科学の質問に解答するAIが登場してしまうと、人間のやるクリエイティブな仕事がなくなってしまいそうです。現役のクリエイターはどう考えているんでしょうね。

ICTクラブ高梁では、2022年11月5日(日)、美術家の小阪淳先生をお招きして、「AI時代のクリエイターの働き方~お金と仲間と作品と~」と題するウェビナーを開催しました。

小阪淳先生は、クリエイターとして30年以上第一線で活躍し、幅広い分野の作品を生み出してきました。その中で、積極的にデジタル技術を活用し、新しい表現を生み出してきたことでもよく知られています。最近では、デジタル絵画を出力するAIであるMidjourneyを活用して様々な実験を試みて、Twitterなどでその経過報告をしています。

美術家の小阪淳先生

AIが身の回りで当たり前になる時代、クリエイターはどのようにAIとつき合えばよいのでしょうか。

小阪先生は、新しい手法や新しい仕事に挑戦する中で、新しい表現を生み出してきました。当日のご講演でもお話をされていたように、新しい仕事やジャンルへと「越境」し、挑戦するにあたっては、仲間とのかかわりが大事だったと言います。ジャンルを問わずクリエイターが斬新な表現を生みながら、お金を得て生活していくのはとてもたいへんです。クリエイターはお金とどのように向き合えばよいのでしょうか。長いクリエイター経験をもとに、小阪先生にはこうしたことについてもお話をしていただきました。

このレポートを書いている(お)と、小阪先生は実はとても長ーいつきあいです。折に触れて、実際に会って、またネットを通して、いろいろなことがらについて議論したり、小阪先生から教えてもらったりしてきました。このウェビナーの最初の話題は、(お)が小阪先生から聞いてびっくりした宇宙の話から始まりました。

光速よりも速く運動するものはない--こう信じている人は少なくないと思います。(お)もその一人でした。ところが、あるとき旧知の小阪先生が「宇宙は光速よりも速く膨張している」と書いているのを見つけて、驚愕しました。「え?」と驚いて、小阪先生とメッセージのやり取りが始まりました。このとき、ちょうど小阪先生は、国立天文台の仲間たちと「一家に1枚宇宙図」と呼ばれる作品を制作していたところだったのです。

この作品は、2007年に発表され、現在はその第2版である2018年版が文部科学省の「科学技術週間」ウェブサイトから配布されています。この作品をつくるにあたっては、デザイナーとして小阪先生は招聘され、「ざくっといって4か月この仕事に集中して暮らせて行ける」金額の報酬が提示されたそうです。

宇宙図づくりに集中することで小阪先生のエネルギーがまず向かったのはデザインそのものよりも、中身の宇宙の進化の理解だったそうです。

小阪先生も、前述の「宇宙は光速よりも速く膨張している」という事実にびっくりしたそうです。というのも、現在宇宙は138億年の年齢であることが知られていますが、少なくとも観測できる宇宙は地球から450億光年先まで広がっているということに気づいたからです。

これはどういうことか?!ということから、小阪先生は、現代の宇宙物理学の理解に取り組みます。現代では、多数の科学論文がインターネットで公開されているので、じかにこうした論文を読むことができます。宇宙の始まりであるビッグバン以前にさらに驚くべき速度で膨張したとされる「インフレーション理論や、その他宇宙の進化に関する論文を読んでいくことで、まずは宇宙についての理解を深めていきました。

ウェビナーで提示された宇宙図2018。

宇宙図の真ん中、ここに描かれた輝く、すり鉢型のものが、時空を通してみた宇宙の姿です。縦軸が138億年の時間を表現し、広がりが半径450億光年の空間を示しています。

宇宙は4次元(3次元空間と時間)なので、このすり鉢は、そのときどき球としてモデル的に描ける(つまり、本当の宇宙の形はわたしたちはわかっていないけれども、観測可能な宇宙はその「端」が私たちの地球から等距離に広がっているものと仮に考えることができる)3次元空間の宇宙を紙の上(つまり、2次元に)に示したものです。天体からの光は、空間を渡って私たちに到達するまで時間がかかります。450億光年かなたには星が均質に広がっているそうですが、この様子は138億年前の宇宙開闢に近い時期の姿を見ていることになります。こうした情報がすべて、このすり鉢状に描かれた宇宙の4次元的な姿を紙の上に投影した像に描き込まれているわけです。

ところで、ずーっと目をしたの移していくと、ポスターの図像の外に、「なぜ何もないのではなく、あるのか」という一言が見えます。これは、哲学者ハイデガーの存在論(「この世界に何が存在するか」を考察する哲学的な分野)のキーフレーズ、つまり科学の外の世界/宇宙に関する問いが1つ書かれているのですね。

論文を調べ、このデザインを構築する中で、デザインじたいがその表現するコンテンツと深く関係しているということに小阪先生は気づきました。このあとも、やはり小阪先生がサイエンスを深く理解することで、それをビジュアルに表現するという仕事が続きます。どの仕事も「デザインよりも圧倒的に内容に時間をかけた」とのこと。美術家・デザイナーという枠には収まらない小阪先生の仕事ぶりがわかりますね。

ウェビナーで示された太陽系図。
ウェビナーで示された光図。

太陽系と、神話に始まるその発見の歴史、つまり人間の宇宙/世界の認識の歴史を描いた「太陽系図」、天文学など科学の基本的な理論的・実験的ツールでもあり、相対論や量子力学など現代物理学の重要な研究対象でもある光を描いた「光図」、リアルなものを模倣する科学の方法や思考、感情など、世界がシミュレーションにあふれていることを示した「シミュレーション図」など、科学をビジュアルに表現する作品を、小阪先生は生み出していきます(ちなみに、シミュレーション図のお話でおもしろかったのは、人間のよりよい未来を思い描く力もシミュレーションである一方、ねたみ・そねみという感情も脳内のシミュレーションによって生まれるという指摘でした。「あー確かにねえ」と思いました)。

このときとても重要だったのが、この講演のタイトルでもある「仲間」だったそうです。宇宙図を描くという新しい分野に挑戦することになったのも、国立天文台にいた「仲間」からの声がけのおかげだったし、「仲間」たちとの議論によって、これらのビジュアル表現が描き出す内容の理解が進み、それと同時に、ビジュアル表現やことばによる表現が育っていったからです。仲間は出入りがありながらもコアメンバーとはずっと一緒に仕事をしているそうです。

ところで、科学と小阪先生のかかわりで言うと、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイ」もその後継機の「アテルイII」も、その筐体のデザインは小阪先生の仕事だそうですよ。びっくり(@_@)。

次に、話題は、朝日新聞に20年以上連載している「論壇時評」のCGへ。昨年始まったロシアのウクライナへの侵攻に関するCG作品(「弾道」、「赤色を想像する難しさ」)や、福島第一原発事故の深刻さと科学技術の無力さ、同事故をめぐるコミュニケーションの困難さを描いたCG作品(「高度」、「バベルの井戸」、「疎通」)や国立競技場問題(「瞑想競技場」)など時事の問題へと切り込むと同時に、また、「印刷のトラブルではありません」、「意味」、「表現」など、新聞の印刷技術のギリギリを攻めるようなCG作品など、表現の発想と冒険心がとても印象的です。とくに、新聞でまったく読むことができない文字ではない文字が掲載されるとか(「疎通」)、あるいは、安保法制を批判し、「日本国憲法」という文字が印刷ミスで汚れたかのような「印刷のトラブルではありません」、掲載紙である朝日新聞の従軍慰安婦問題の隠蔽状況を批判したまっ黒塗りの「意味」などの作品は、担当者という「仲間」がいたからこそできたと、小阪先生は強調します。必ずしも考え方や思想が共通ではなくても、同じ志をもって支えてくれた仲間がいてくれたことが大きいと言います。

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに創作された「赤色を想像する難しさ」。これが新聞に掲載されると…
新聞掲載によって「赤色を想像する難しさ」が二重の意味で生じる。
ネットでも話題を呼んだ作品「疎通」。原子力をめぐる様々な言説の間のディスコミュニケーションを風刺する作品。一見すると読めそうだが、よく見るとまったく読むことができない異星人の文字のような「文章」が並び、ぎょっとさせられる作品。

地球温暖化の結果でしょうか沈没してわずかに海上に頭を出す未来の環状ビル群を描いた「最終国土」や、焼け落ちたパリ・ノートルダム大聖堂の私的再建案「Future Axis」など、未来へと向かう希望と不安を示す作品も印象的ですね。

地球温暖化によってか水没した国土の海面からわずかに高層ビルとハイテクな塔の一部のみが覗くという「最終国土」。どこか明るい雰囲気は、こうした事態が仮に来るとしても私たちはそれを受け止め生きていくだけの力をもつし、持つべきだという願いが込められているものと、(お)は見ました。
焼け落ちたパリのノートルダム大聖堂の再建案として提示された作品「The Future Axis」。バラ窓を通して降りてくる垂直の光が未来への軸として機能する。

休憩をはさんで後半は、ゲームエンジンを駆使した映像作品や、その他の造形作品を紹介していただきました。

ゲームエンジンとは、デジタルゲームをつくるための開発ツールと実行環境が一体化したソフトウェアで、多くのデジタルゲームやCGアニメーションなどの制作に使われています。小阪先生は、10数年前は有料だったUnityというゲームエンジンを使っていたのですが、現在では無料版になったものを使っているそうです。

VIT 2.0は、異世界の惑星の生態系を描いた映像作品。幾何学的な「生物」たちの食物連鎖を描きます。ゲームコントローラーを使って操作ができる作品です。自分自身がほかの生物に食べられてうんちになってまた物質の循環の中に入って生物になってという感覚を味わえます。この作品は、東京都写真美術館に所蔵されています。

VIT 2.0。異世界の惑星の生物としてうんちになって物質循環にのる体験ができます。

VIT2.0と同じような宇宙的スケールと、人間の生活のスケールとをつなぐのが、「宇宙サイコロ」「人生サイコロ」「昼休みサイコロ」という作品。それぞれフラスコの中にサイコロが封入されていますが、「宇宙サイコロ」のサイコロのゾロ目が出る(すべて同じ目がそろう)のが200億年に1回、「人生サイコロ」は60年に1回、「昼休みサイコロ」は2時間に1回ゾロ目になるそうです。「昼休みサイコロ」は展示するとサイコロの角が取れてきているのがわかるそうなんですが(笑)、宇宙サイコロはぞろ目が出る前に粉になってしまうかも…(苦笑)とのことでした。

宇宙スケールから卑近な人間的なものまでの時間を示す「宇宙サイコロ」「人生サイコロ」「昼休みサイコロ」。

次の作品Etikは凧なのですが、よく見ると凧自体は草原で、人の人形が凧の糸をつかんでいます。つまり、凧を地上からあげているのか、凧に私たちの地球が挙げられているのかという、やはり大きな宇宙的スケールでの逆転現象を頭の中で体験できる作品です。

Etik。凧にあげられる私たち。

こうした宇宙的スケールの「物体」は国旗に描かれることが少なくありません。太陽を描いた日の丸。星を刻んだアメリカや中国の国旗。小阪先生の描いた日の丸と中国国旗(五星紅旗)は、リアルな天体としての太陽や星空を想起させるものです。

コロナが燃え立つ「リアル日の丸」。
宇宙空間に広がる星々で描かれた「リアル五星紅旗」。

こうした宇宙のスケールから見ると人間の営みは小さく、また、短いものです。人間はこうした悠久の宇宙の時間の中で学び少しずついろいろな問題を解決していく可能性があるにもかかわらず、宇宙の物体を描いた国旗を掲げて戦争や争いが起きています。国旗はそういう意味で、宇宙的な時間や広がりと人間世界の歴史的なできごとをつなぐと同時に、宇宙と比較しての人間の至らなさとを表現したものと、小阪先生は説明します。宇宙の時間や広がりから人間の歴史的世界を見つめなおすことで、大きな転換が起きることを期待する作品なのかもしれませんね。

次に、造形的な作品が2つ。まず、小阪先生の奥様の宮木朝子先生のCDのジャケットデザイン。裏表と4辺の入れ方を変えることで、穴の開いたジャケットから異なる8種類の風景が広がります。また、講演当日も制作中だった「時形」という、秒針・分針・時針だけでできあがり、次々と形を変えながら時を刻む時計も紹介されました。ギアボックスを内蔵して動かすことに苦心があるそうです。小阪先生なんでもつくるなあ!と(お)は大感心。

講演当日は制作中だった作品「時形」。2023年12月23日から29日まで、両国もんてんホールの小阪淳先生の個展で展示されました

次は、インタラクティブ作品「Beat Box Video」。さまざまな音が記録された映像を、音の鳴る短いコマを切り出して並べていくことで、映像とともに音楽が立ち上がる作品です。テレビ映像をリアルタイムで取り込んでいくこともできるそうですが、会場では、ビデオを取り込んで音楽が聞こえてくる様子を記録した同作品が上映されました。ルールは2つ。一つはビートボックスでビートを刻み、それぞれのビートの始まりに合わせて取り込んだ音が鳴る。もう一つのルールは、半音音程を調整して、ピアノでいうと白鍵だけを引くような状態にする。このルールで、さまざまなノイズが記録された映像を取り込むことを繰り返していくと、まるでインドネシアのケチャのようであったり、不思議な前衛的なリコーダー作品のようなパーツを持つ音楽が立ち上がってきました。音楽と人間の音楽の認知の不思議さにふと打たれるような作品です。

インタラクティブ作品「Beat Box Video」より。

「Beat Box Video」は最小限のルールをつくることで意味をもつ作品ができないかという試みだったそうですが、これを今度は視覚的な分野にも小阪先生は拡張します。まずはでたらめに生成される数をもとにゲームエンジンが生成するオブジェクトをつくり出していきます。

乱数による作品。文字は「疎通」と同じように意図的に読めない文字のような図形を小阪先生がつくったものですが、オブジェクトは小阪先生が意図したものではなく、偶然的な乱数によってできあがったものです。

さらに、今度は関数へと関心を移し、フラクタル関数の変数の値をいろいろといじることで、きわめて「饒舌な」「宗教的な文様」のようにも見える画像や、きわめて複雑な織物や、昆虫や小さい着物が金属をきわめて細かく細工したようにも見える構造物、自然にはできあがりそうもないが、人間の意図も感じることができないような岩石の塊のような図像などができあがっていきます。展覧会で変数の値をいじって生成するのを鑑賞してもらったりする一方で、おもしろい図像ができあがるとそれを保存したり切り取って、デザイン作品に取り入れるなどの形で報酬を得る仕事の一部としても成立しているとのことです。

フラクタル関数による作品。都市遺跡のような構造物が生成され自律的に変形していく。その部分をアップで見ると、きわめて細かいディテールが浮かび上がってくる。これはそのディテールをさらに細かく見て行っても同じ。コンピュータの中に奇妙な構造・形の物体がつくられているのと同じとも見える。

「どんどん自分の意図を離れていく作品をつくろうとする方向に進んできた」と、小阪先生は、「BeatBoxVideo」以降の作品の展開を説明します。また、こうした作品を作る中で、「人間の意図や意思というものは複雑に見えても、実はシンプルなルールによって出来上がっているのではないか。ある状況が設定されたら意識のようなものも生まれてくるんじゃないか」と考えるようになってきたそうです。というのも、こうした作品は一定のルール(関数)にしたがって生成されているだけにすぎないのに、まるでそこに意思が働いているかのように見えるからです。

関数によって生成したオブジェクトが変形をし続ける、小阪先生映像と、小阪先生の奥様の作曲家宮木朝子先生の音楽とでできあがった映像作品「Makiginu-巻絹」

さらに、小阪先生は、AIによる画像の自動生成へと進んでいきます。2022年春ごろから流行りだした画像生成AIは、画像を描写するテキストを入力するとその描写・指示にしたがって画像を生成してくれるというものです。MidjourneyStable Diffusionなどが有名ですよね。

まだあまり注目を浴びていないころからMidjourneyをまずは使って、5000枚の画像を生成したそうです。この間、講演のころまでの「ここ数か月で爆発的な進化を遂げています」とのことでした。当初は、『未来少年コナン』のトルメキアの飛行機のようなオブジェクト、シド・ミード風の未来的な自動車、70年代サイケデリックロックのポスター風の画像、白骨のような生物的な手触りを持ったロボットの頭部、有機的な絡みつくような手すりをもつ木と金属でできたような建築物などなどさまざまなイメージを生成してきました。

Midjourneyで小阪先生が生成したロボットの頭部。
Midjourneyで小阪先生が生成した建築物。

小阪先生がこのように画像生成を試みる横で、画像生成AIに対してさまざまな人が批判の声をあげるようになりました。日本では、きわめて精巧で人間が描いたかのようなアニメ絵が登場する頃から、人間であれば影響を受けて描いていると言えるような画像の生成について、画像生成AIは「パクリ」だという声が上がり始めました。小阪先生じしんは、画像生成AIは登場してしまったからには受け入れるべきだし、有害な技術として止める必要はないと考えているといいます。

「人間のクリエイティビティを特権化する必要はなく、むしろ機械に意図や意思を預けたいくらいで、ぼくにとって価値があるものが生み出せるならば、AIに選択を預けられるならばどんどん預けていく方がいい。自分がそれまで培ってきた技術とかにもさほど固執していません。同じようなものを絵が描かせると実際AIのほうがうまかったりします。どちらの方向に進めるかという選択を行うだけで、(手を使って描くのと)同じような作品を生み出せるんです」。

小阪先生は、朝日新聞掲載の作品にもAIを使って生成した画像を使用しました。画像の桜の部分はMidjourneyで生成したものだそうです。「AIが利用されることで新しい表現や仕事、需要が生まれるはず。写真が生まれたことでそれまでの絵画が満たしていた需要の一部は確実に失われたかもしれません。ですので、やはり、AIが生まれたことで従来のビジュアル表現が担ってきたものがAIに取って代わられるものがあるんだと思います。でも、その、人間が描く表現の需要が減った分、AIによって新しい需要が生まれるだろうなと思っています」。

朝日新聞に掲載されたMidjourneyを活用したCG作品。桜の部分がAIによる自動生成。AIによる創作の可能性を探索するだけでなく、AIをツールとして活用してマネタイズすることもこのように試みている。

Midjourneyで画像を制作するにあたっては、単純に生成しただけでは印刷などのクオリティのためにピクセルが足りないので、ピクセルを「マシマシ」してくれるツールを活用しているそうです。また、3Dモデリングには無料のBlenderを使っているとのことです。ゲームエンジンのUnityもそうですが、「いまは無料ですごいツールがあって、今の若い人は幸せだなあと思います」と、小阪先生は講演後の質疑応答で話されていました。

テキストからイメージを生み出す画像生成AIは、「GAN(敵対的生成ネットワーク)」や「Diffusion Model(拡散モデル)」という技術を使って、人間が教えないでもデータから特徴を取り出して、新しいパターン(平面画像など)や、従来のパターンを模倣するものを生成することを行っていますが、さらに音楽や立体などにもこのGANやDiffusion Modelによるパターン生成は広がっていくと、小阪先生は予想します。小阪先生は一級建築士免許をもっていますが、一級建築士試験の製図は、ルールも条件も明示的に決まっているのでAIによって比較的容易に代替可能だろうともいいます。

では、AIが普及した社会でクリエイターはどのように生きていけばよいのでしょうか。小阪先生は、「ゴールを広げて努力が報われるようにするべきだ」と主張します。「『努力が報われない』と感じたら、(『やるべきではないこと』を意識しつつ)報われそうな方向に『ゴール』を広げる」。つまり、「努力は報われる、ではなく、努力を報わせる」、これが、大事だと小阪先生は言います。

AIが普及していくと、人間が身に着けた技術や能力が無駄になってしまうのではないかという意見がありますよね。しかし、努力して身に着けたものを活かすための将来の努力の方向性を変えたり、ゴールを広げるという方向で、今まで積み重ねてきた努力を活かせるだろうと小阪先生は説明します。

人間は「やりたいこと」を考えがちだが、そうではなくて、第一に倫理的な意味で(これは、自分自身にとって正しいことよいこととは何かという意味で)、第二に思考や趣味の意味等で「やるべきではないこと」を明らかにして、それをやらないということにすれば、ストライクゾーンが広くなります。「宇宙図」も当初さほど宇宙に興味はなかったものの、「やるべきことではない」ことではないからということで手掛けてみたらむちゃくちゃおもしろかったのだといいます。

やりたいこととやるべきこととやるべきでないこととの関係。

一方で、「やりたいこと」だけを意識して手を広げて行くと「やるべきではないこと」に手を染めてしまうかもしれません。なので、「やるべきではないこと」にうっかり手を染めてしまうことを防ぐためにも「やるべきではないこと」を意識しておくことが大事なのだといいます。

このように「やるべきではないこと」を意識しつつ、ゴールポスト/ストライクゾーンを広げていくためには、「自由度をいかに確保するか」が大事で、「その自由度の中で、如何に楽しさを見つけることができるか」が大事、こう小阪先生は説明します。

その中で、小阪先生は従来の美術にはこだわらなくなったといいます。西洋文化の古典的な「真善美」という価値の枠組みさえも現代においてはすでに崩壊しており、真でなくても美しいもの、善でないからこそ美しいものがあるうえ、さらには美醜という対立さえも無意味になっている場合さえもあります。よくよく世界を見ると、ダイナミックに真や偽、美や醜、善や悪が変動しているとさえもいえるかもしれません。美しいからこそ恐ろしいプロパガンダもあります。ジャンルさえも現代においてはどんどんその境界はぼやけつつあります。「様々なジャンルも解体され、再構築され、常に更新されていくもの」であると考えることができます。こうした従来の価値の枠組みが高速に組み替えられ、ジャンルの境界がぼやけ再構築されていく中では、美術という枠組みを守っていくよりも、それを超えていく方が自然です。

こうした従来のジャンルを超えていく中では、自分とは異なる価値観の仲間や人々との交流が、美術という枠にこだわらず、越境していく力や機会を与えてくれ、お金もふくめ生きていくための力になってきたと、小阪先生はまとめます。

偶然を利用するインタラクティブ作品「Beat Box Video」に始まり、乱数や関数を活用するゲームエンジンによる画像や映像の自動生成の活用を経由して、AIによるイメージの自動生成を試していく中で、小阪先生の創作に対する考え方は、自らのコントロールを手放していく方向へと向かってきたことがわかります。AI作品は今後プロンプト(具体的な作品制作にかかわる指示)さえも必要なくただ選択をするだけで済むようになるかもしれません。このときでも、この選択をするボタンを押した者が著者になるだろうと、小阪先生は考えています。将来のAIを活用するクリエイターは、AIを道具として創作活動を行う一方で、マネタイズするための工夫もあります(生成した画像や映像を報酬が伴う作品の中で活用するなど)。「やるべきではないこと」を意識しつつ、ジャンルや技術、従来の美の秩序にこだわらず、自由度を拡大して創作や仕事の可能性を大きく広げていくこと、これが、AI時代のクリエイターが、創作活動を仕事にしながら生きていく重要な心構えということになりそうです。

過去の記事
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